カンファレンス3日目

カンファレンス3日目です。今日の朝食はメニューが変わってブリトーでした。

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3日目の朝食はブリトー

ライトニングトーク

カンファレンス3日目朝には、筆者が前日に通ったライトニングトークをしました。 タイトルは「Put 🐱 Cat Emojis in your documents!」で、筆者が作成して公開しているSphinx拡張sphinx-nekochanを使って、しかまつさん作のネコチャン絵文字をドキュメントに挿入するというものです。

私の発表はビデオの16分49秒頃からはじまるのですが、司会の方が「次のトークはPythonコミュニティにとって非常に重要な2つの話題について話します。ネコと絵文字です。」というとても素晴らしい前振りをしてくれました。感謝です。

実際にビデオを見て欲しいのですが、トークの最初で私が「Do you like Cats?(ネコは好きですか?)」と問いかけると、会場から「Yeeees!!」のような声がたくさん上がって、非常にポジティブな聴衆を前に楽しくトークができました。 ネコチャン絵文字が世界デビューしました。

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ライトニングトークの様子

3日目朝のライトニングトークでは、毎年恒例の世界中のPyConやPythonイベントのリレートークがあります。 1イベント30秒くらいで、世界中のイベント主催者が自分たちのイベントを紹介します。 ビデオでは47分53秒頃からはじまります。 発表が始まる前、世界中のイベント主催者が並んで待っています(この写真は私がKwonHanさんに頼まれて撮影しました)。

日本からはPyCon JP 2025座長の西本さんが登壇し(ビデオの54:05くらい)「私は今回はじめてPyCon USに参加したので、みなさんも初めてのPyCon JP 広島開催に初参加しましょう!」と呼びかけていました。

ところで、主催者が来ていないときには、スライドを他の人が紹介するんですが、52分24秒からPyOhio、PyCon UK、DjangoCon USを一人で紹介した方がちょっと面白いので、見てみてください。

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西本さんのライトニングトークの様子

ポスターセッション、ジョブフェア、コミュニティショーケース

3日目の午前中はトークセッションはなく、ポスターセッションとジョブフェア、コミュニティショーケースのみとなります。 企業ブースがあったところをカンファレンス2日目の夕方に片付けて、3日目はこれらのイベントが展開されます。

ポスターセッション

ポスターセッションはボードにA0程度のサイズのポスターを掲示し、その前でディスカッションなどを行う発表形式です。 筆者もポスターセッションを見て回っていくつか質問やディスカッションをしてきました。 「色のセオリー」についてのポスターでは、データ可視化ツールのより見やすい色について解説されていました。 各ツールのデフォルトの色はおすすめではないということで、「ぜひ次に発表する機会があれば、おすすめのカラーテーマを教えて欲しい、もしくはテーマを作って共有してほしい」という話をしました。

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データ可視化の色のセオリーについてのポスター

CrossHairのポスターでは、コードを自動的に解析してテストをしてくれるライブラリCrossHairの紹介をしていました。 CrossHairはPurePythonしか対象にできないため、制限があるという話でした。 ただし、大きなプロダクトだったとしても、PurePythonで書かれている部分に絞って適用することは可能だそうです。

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CrossHairのポスター

ジョブフェア、コミュニティショーケース

ジョブフェアとコミュニティショーケースは机2つ分の小さなブースが並んでいます。 ジョブフェアは求人をしている企業がブースを出し、求職者が直接企業の担当者と会話ができるという場です。 ジョブフェアのみに参加することも可能で、その場合のチケット代は30ドルです。 会場の近くに住んでいて仕事を探している人には、よい機会かなと思います。

以下の配置図を見るとわかりますが、AWS、Bloomberg、Metaと大きな企業が2024年よりも戻ってきたという印象です。 ただ、全体としてはジョブフェアのブース数がそれほど多くなく、コミュニティのブースが6つほどあります。

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ブースの配置図

ジョブフェアではやはり有名な企業はたくさんの人が列に並んで話をするのを待っていました。 私は仕事を探していないので、知り合いのいるLerner Pythonのブースを訪ねました。 Reuven LernerさんはPythonのトレーニングを提供しています。 あいさつをしに行くと、PyCon Taiwanで一緒に飲んだ私のことを覚えていてくれたようです。

ReuvenさんのブースではいつもTシャツを配っているんですが、Tシャツの色がグレーから変わっています。 「Tシャツの色が変わりましたね」と聞いてみると「妻の好きな色にしたんだよ」といった話をしました。 「日本は今年広島で開催するので、ぜひ来てくださいね」という話もしたんですが、9月末にはユダヤ教の祝日があるらしく、残念ながら参加は難しいそうです。 開催時期がずれたタイミングで、日本でReuvenさんに再会できることを楽しみにしています。

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Reuvenさんと筆者

Python Steering Council

Python Steering CouncilはPythonの言語仕様を最終決定するSteering Council(運営評議会)のメンバーが、現在の状況や今後のPythonについて共有する場です。 Steering Councilは毎年投票で5名が選ばれ、2025年はBarry Warsaw氏、Donghee Na氏、Emily Morehouse氏、Pablo Galindo Salgado氏、Gregory P. Smith氏がメンバーです。 Emily氏は欠席でした。 Donghee氏は韓国在住で、おそらくアジア系で初めてのSteering Councilメンバーです。

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Steering Councilメンバー(左からBarry氏、Pablo氏、Gregory氏、Donghee氏)

最初にSteering Councilがなにをしているかの説明がBarry氏からありました。 Pythonの拡張提案であるPEPの受諾または拒否の決定をし、Pythonの品質と安定性を維持しています。 また、PSFと協力してプロジェクトの資産を管理しています。 詳細は以下のPEPドキュメントを参照してください。

Steering Councilメンバーは毎週90分のミーティングを実施しているそうです。 また、気軽にコミュニケーションできるオフィスアワーも実施しているそうです[1]

Pythonへの新機能の取り込みはbeta 1のリリースまでに行われます。 Python 3.14は現在beta 3がリリースされており、取り込まれる新機能は確定している状態です。

Gregory氏からは、Pythonのコア開発者と資金調達についての話がありました。 Pythonは多数のコア開発者によって開発されています。 普段はオンラインで活動していますが、年に1回「Core Team Sprints」という開発イベントを1週間実施しています。 PSFでは現在フルタイムの開発者を4名雇用しており、それ以外にも開発イベントなどでも資金が必要です。 雇用を維持するためには継続的な資金の提供が必要ということで寄付の呼びかけがありましたが、なんとそのスライドにネコチャン絵文字が使われていました! おそらくGregory氏が私のライトニングトークを見てネコチャン絵文字を気に入ったとのだと思いますが、氏が担当しているスライドにネコチャン絵文字がいくつも使われていました。 これにはびっくりしました。

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寄付の呼びかけスライドにネコチャン絵文字!

次にDonghee氏からワーキンググループについて説明がありました。 Pythonのドキュメントとその翻訳などを管理するPython Documentation Editorial Board(PEP 732)の紹介がありました。 現在のボードメンバーはMariatta Wijaya氏、Ned Batchelder氏、Joanna Jablonski氏、Guido van Rossum氏、Carol Willing氏の5名です。 今はここにGuidoさんがいるんですね。

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Donghee氏

他にもPythonのC APIの開発とメンテナンスの中心となるC API Working Group(PEP 731)、 型システムを担当するTyping Council(PEP 729)が紹介されました。 Typing Councilについては以下の記事でも紹介しているので、興味のある方は読んでみてください。

最後にPablo氏からPython 3.14の新機能について紹介がありました。 Pablo氏はなにか動物の耳のカチューシャを付けているのですが、これは「この耳を付けて登壇したら100ドルPSFに寄付する、とHynek氏が約束した」からだそうです。お茶目ですね。

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ケモ耳を付けたPablo氏

ここでは以下の新機能が紹介されました。たくさんの新機能があるのでこの記事では簡単に紹介します。

  • PEP 649 and 749: deferred evaluation of annotations

    • 関数やクラスのアノテーションの遅延評価への対応と、そのためのannotationlibモジュールの追加

  • PEP 741: Python configuration C API

    • Pythonの設定を行うためのPyConfig_Get()等のC API

  • PEP 750: Template strings

    • t"Hello {name}"と書けるテンプレート文字列。安全にHTMLコードに変換するなどの用途が考えられる

  • PEP 768: Safe external debugger interface for CPython

    • sys.remote_exec(pid, script_path)等で安全な外部デバッガーへのインターフェース

  • PEP 784: Adding Zstandard to the standard library

    • Zstandardという圧縮、展開が速い圧縮アルゴリズムcompression.zstdを追加。tarfile、zipfile、shutilモジュールにも組み込まれる

  • PEP 758: Allow except and except* expressions without parentheses

    • except*の複数例外がカッコ(())なしで記述可能に

  • Better error messages

    • whileasyncなどのキーワードの綴り間違いへの対応など、わかりやすいエラーメッセージへの改善

  • Asyncio introspection capabilities

    • 非同期タスクを使用したPythonのプロセスを検査するための、新しいコマンドラインインタフェースを追加。python -m asyncio ps PIDのようなコマンドで検査できる

  • A new type of interpreter --with-tail-call-interpでビルドできる新しいインタープリター。数%のPythonの高速化を実現

  • Syntax highlighting in PyREPL

    • Pythonの対話モードでラベルに色が付くなどのシンタックスハイライトに対応

各機能の詳細はリンクしているPEPドキュメントや、公式ドキュメントのWhat’s new in Python 3.14を参照してください。

Gregory氏がZstandardの説明をするときにまたスライドにネコチャン絵文字が出てきました。 このときGregory氏は「今朝のライトニングトークで『ネコはものごとを良くする』と言っていたので、スライドに(絵文字を)入れました」と私の今朝のトークについて触れていました(16:38)。 まさか言及されるとは思わなかったので、二度びっくりです。

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Zstandardのスライドにもネコチャン絵文字

最後のパートではFree threading(フリースレッディング)について時間をとって語られました。 Free threadingとはCPythonからGIL(Global Interpreter Lock)を除去し、並列処理のパフォーマンスを上げるというものです。 Free threadingについての詳細は以下の記事も参考にしてください。

Python 3.13のFree threadingをシングルスレッドで動作させると40%遅かったが、3.14では2〜5%となったそうです。 Free threadingの今後のサポートについて議論するためにPEP 779が提案され、PyCon US 2025の後にアクセプトされました。 Free threadingはCPythonで公式にサポートされて、実験的ではなくなりました。 ただしフェーズ2という状態で、オプションであることに変わりはありません。

Free threadingについてインストール方法、制限、ライブラリの対応方法についてなど、ドキュメントが提供されていることも紹介されました。

Python 3系も3.14までバージョンが進んできましたが、まだまだたくさん改善、機能追加が行われるということに驚きました。 Free threadingの今後にも注目です。

Python Software Foundation Update & Awards

PSFから最新の情報とアワードの表彰がありました。 PSFの理事の選挙が8月か9月に開催されるとのことです。

PyLadiesアワードでは50名がノミネートされ4名が受賞しました。 ただ、そのうち3名は現地にいないのが残念でした。 PSFのCommunity Service AwardsではPython Asia Organizationの創始者でもあるIqbalさんが受賞していました。 Iqbalさんの盾は寺田さんが持ち帰って後日渡すことができました。

Distinguished Service AwardsはPSFから贈られる最高の賞で、今年は長年Pythonコミュニティで多大な貢献をしてきたThomas Wouters氏、Van Lindberg氏、Ewa Jodlowska氏が受賞していました。 PSFのExecutive Directorを長年勤めていたEwa氏の受賞の時には、会場からひときわ大きな拍手が送られていました。

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Distinguish Service Award受賞者(左から2番目がEwa氏)

クロージング

最後はクロージングです。これで3日間のカンファレンスが終わります。 まず最初にスピーカー、ボランティアなどの数とともに感謝が述べられました。 初めてPyCon USに参加した人は1400名以上とのことで、すごい人数です。 ただ、全体の参加人数が発表されなかったことが気になりました。

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Elaine氏によるクロージング

2日目の夜に行われたPyLadiesオークションの寄付金額は、67,000ドル(約980万円)とのことです。 1日ですごい金額の寄付が行われました。

来年のPyCon USは2026年5月13日〜19日に、カリフォルニア州ロングビーチで開催されるとの告知がありました。 いつもより2日少ないので、おそらくスプリントが4日間から2日間になると思われます。 4日間スプリントに参加する人は少ないので、妥当な判断かなと思います。

こうして、無事カンファレンスが終了しました。 しかし、PyCon USはこれで終わりではなく、明日からスプリントが始まります。

パーティー

この日の夜はアジアメンバーで集まってパーティーです。 予約した時間まで少し余裕があったので、私を含むビールクズ数名でPenn Breweryに行きました。 ここはピッツバーグでは最も古いビール醸造所だそうです。

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Penn Brewery

そしてChurch Brew Worksに移動です。 ここは2024年にも訪れたんですが、教会だった建物がビール醸造所兼レストランになっており、とても素敵な場所です。 この写真の奥、教会の祭壇があったところでビールが作られており、その手前に私たちのテーブルが用意されていました。

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Church Brew Works

ここでは一人1品食事を頼まないといけないんですが、Penn Breweryで少しつまんできたのであまり多くは食べられそうにありません。 そこで、これなら大丈夫かな?と思ってジャンバラヤを頼みました。 このジャンバラヤがちょっと私には辛かったため「これは私には辛いよ」と言う話をしていたら、韓国のJoongiさんが「私は韓国人だけど辛いのはあんまり強くない」と言うので、私が「じゃあちょっと食べてみて」と伝えると、Joongiさんは一口食べて「辛くない」と言い、やっぱり韓国の人が言う「辛さに強くない」は嘘だなと思いました。

その後も台湾のRexさん、香港出身のCheukさんも私のジャンバラヤを試しましたが、口を揃えて「辛くない」と言うので(日本の寺田さんにも「辛い」)、日本人は辛さに弱いんだなーというお国柄の違いを感じました。 個人的には、こういうどうでもいい話がとても楽しいです。

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ジャンバラヤ